歩行器の種類と選び方|目的別に分かる特徴・使い方のポイントとは

加齢や何らかの疾患等によって筋力やバランス感覚が低下すると、「歩く」ことに対して不安を感じる方が増えてきます。転倒をきっかけに骨折し、入院、寝たきり状態になるケースも決して少なくありません。そうしたリスクを減らし、自立した生活を維持するための補助具が「歩行器」です。

しかし、一口に歩行器といっても、多くの種類があります。使用者の身体状態や生活環境に合ったものを適切に選ぶことが重要です。本記事では、歩行器の基本的な役割や種類、選び方・使い方のポイントについて、詳しく解説します。

 歩行器とは

歩行器とは

歩行器とは、歩行に不安のある高齢者やリハビリ中の方を支える福祉用具です。使用者の身体機能や生活環境に合わせて適切に選ぶことで、安全かつ自立した生活を支援することができます。

歩行器の役割

高齢者にとって、「歩く」という機能は非常に重要なものです。歩けなくなると、筋力低下や関節の拘縮、心肺機能などが急激に衰える「廃用症候群」を引き起こします。また、自立した生活が難しくなり、社会的に孤立し、自己効力感が低下することで、精神的な落ち込みを招くことも少なくありません。

「歩く」機能をサポートするための器具が歩行器です。基本的には両手で持ち、体を預けるようにして使用することで、歩行時のバランスを保つ構造となっています。足腰の筋力が低下した高齢者や、リハビリ中の患者、病気やけがで一時的に歩行が困難な方など、さまざまな方が使用する器具です。

歩行器にはいくつかのタイプがありますが、どのタイプにも共通する特徴は以下です。

・体重を分散し、脚部の負担を軽減できること
・転倒リスクのある環境でも、比較的安定して歩行できること
・使用者自身の歩行能力を保持しながら使用できること

歩行器のメリット・デメリット

歩行器を使用するメリットとして、代表的なものをいくつかご紹介します。

・歩行時の痛みの軽減
膝や股関節にかかる負荷を軽減できるため、痛みを緩和する効果が期待できます。

・ふらつき、転倒の防止
接地面が広く安定しているため、バランスをとりやすく、ふらついて転倒するリスクが軽減できます。

・歩行の安定化
常に支えがあることで、安定して歩くことができます。

・行動範囲の拡大
室内だけでなく、屋外で使用できる歩行器もあります。積極的に外出できるようになれば、生活の質も向上します。

一方で、歩行器を使用することによるデメリットもあります。

・体に合わないと不調を招く恐れ
身長や体格に合った歩行器を使わなければ、腰痛や肩こりといった不調を招いてしまうかもしれません。

・見た目に抵抗感を持つ可能性
歩行器は、サイズが大きく目立つものであるため、とくに導入初期には心理的な抵抗感を持つ方もいます。

歩行器は介護保険でレンタル可能

歩行器のレンタルは、要介護認定(要支援1、2または要介護1〜5)を受けた方が対象となります。利用者の希望に応じ、歩行器の購入を選択することも可能です。

また、提供事業者側は、以下のような要件を満たす必要があります。

・市区町村(または都道府県)の指定を受けた福祉用具貸与事業所であること
・福祉用具専門相談員を配置していること

 歩行器の種類

歩行器の種類

歩行器にはいくつかの種類があり、使用者の身体状況や使用環境に応じて適切に選択しなければなりません。ここでは、代表的な3つのタイプを紹介します。

ピックアップ式(固定型・持ち上げ型)

最もスタンダードな歩行器で、4点で接地するため、非常に安定性が高いのが特徴です。体の前面と側面を囲むような「コ」の字型のフレームで、両手で掴みながら体を支えます。歩行器を両手で床から持ち上げて前方につき、フレームで体を支えながら一歩ずつ前へ進む、という動作を繰り返して進みます。そのため、腕や肩など上半身の筋力がある程度必要です。

【適している方】
・歩行器に体重をあずければ、ゆっくりと歩くことができる方
・上半身にある程度筋力のある方
・杖では歩行が不安定になってしまう方

【注意点】
・ 屋外や段差のある環境では使いにくい可能性がある
・移動の速度は遅い

交互型

見た目はピックアップ型と似ています。左右のフレームをそれぞれ動かすことができる点が、ピックアップ型とは異なります。歩く際に手を振るようなイメージで、左右のフレームを前方へ動かしながら進みます。ピックアップ型よりスムーズで、自然な歩行リズムを保ちやすいです。また、ピックアップ型の場合、歩行器を持ち上げたときには自分の足の力だけで立つ必要がありますが、交互型は左右どちらかの脚が必ず地面についていますので、より安定感があります。

【適している方】
・自分である程度歩けるが、バランスに不安のある方
・片足に痛みのある方

【注意点】
・ 少しの段差でも乗り越えるのは難しい
・協調運動の苦手な方には扱いにくい

車輪(キャスター)付き

ピックアップ型歩行器の前脚のみに車輪が付いたものは「二輪歩行器」、4本の脚すべてに車輪またはキャスターが付いたものは「四輪歩行器」と呼ばれます。

押しながら進むことができるため、スムーズかつ扱いやすいのが特徴です。ピックアップ型や交互型に比べると、腕の力が弱い方でも扱うことができます。

『歩行器』と『歩行車』の違いは、主に“車輪の数”や“使用者の筋力に対する補助の仕方”で分類されますが、メーカーや商品によって定義が異なることがあります。介護保険制度では、適用可否が“機能”と“必要性”に基づいて判断されるため、名称だけで判断せず、具体的な機能や使用者の状態に合わせて選ぶことが重要です。

【適している方】
・歩行能力はあるが、長距離移動に不安のある方
・バランス障害の軽度な方
・リハビリを始めたばかりの方

【注意点】
・ 勢いよく進んでしまうことがある

 歩行車やシルバーカーとの違い

歩行車やシルバーカーとの違い

「歩行補助具」には歩行器のほかに、歩行車やシルバーカーも存在します。歩行器とは違った特徴があり、向いているユーザーも異なります。

歩行車

歩行車とは、基本的に4本の脚すべてに車輪がついており、歩行器と同様に体重を支えながら使用する歩行補助具です。介護保険における福祉用具としては、「歩行器」と分類されています。歩行車には2つのタイプが存在します。

・サークル(馬蹄)型

肘〜前腕を使って体を支えるため、体や足の力が弱くても、比較的使いやすいのが特徴です。病院や施設などの屋内でよく使われています。車輪が小さいため段差を乗り越えるのは難しく、基本的に屋外での使用は難しいです。

【適している方】
・足腰の力の弱い方
・腕の力が弱くハンドル操作は難しい方

・左右ハンドル型

自転車のような左右のハンドルがついており、ブレーキレバーも備えられています。屋外で使う歩行補助具として、最も一般的なものです。重心が低く車輪が大きいため、安定性が高く、小さな段差を乗り越えることもできます。

【適している方】
・腕の力があり、ハンドルをしっかりと握ることができる方

シルバーカー

シルバーカーとは、車輪のついた収納ボックスを、後ろから押して歩くタイプの手押し車です。歩行器や歩行車は、利用者の前面・側面を囲むような作りになっていますが、シルバーカーは利用者の前に置かれるという点が大きく異なります。歩行器や歩行車とは異なり、体重をかけて歩くことはできません。収納ボックスがついているため買い物に便利なほか、座面に腰掛けて休憩することができる点も特徴的です。

【適している方】
・歩行能力に問題はないものの長距離歩行に不安のある方
・荷物を持って歩くのが大変と感じる方

【介護・福祉EXPO】では、歩行支援、フレイル予防、介護予防器具、
リハビリ用品やレクリエーション支援サービス、介護ICTなどが出展します。

 歩行器の選び方・使い方のポイント

歩行器の選び方・使い方のポイント

歩行器を安全かつ効果的に活用するには、レンタル時の選定だけでなく、使用開始後の調整や点検も重要です。以下のポイントを押さえることで、利用者にとって最適な歩行器を選び、安心して使用してもらうことができます。

利用する場所や目的を明確にする

歩行器は、種類によって使いやすいシーンが異なります。室内・屋外のどちらで使いたいのか、使う想定の範囲内にどの程度の段差があるかなど、利用する場所の調査が必要不可欠です。

室内であれば、固定型・交互型・車輪つきのいずれも比較的使いやすいですが、屋外である程度の距離を歩きたいのであれば車輪つきの四輪歩行器がよいでしょう。ただし、屋内では部屋の広さや家具の配置などの事情により、大きい歩行器が使えない場合もあるかもしれません。屋外での使用をメインで想定する場合は、折りたためる、軽い、段差を越えやすいなどの特徴も重要になります。

一人で買い物に行くことを想定しているのであれば、左右ハンドル型の歩行車も選択肢です。病院や施設など、広い室内で使用するのであれば、サークル型の歩行車も主流となっています。

体に合った製品を選ぶ

利用者の歩行能力や身体機能に合った製品を選びましょう。歩行器を持ち上げる腕の力がない場合には、固定型や交互型は使用できません。ある程度の歩行能力と上半身の筋力はあるものの杖では不安定という方は固定型が向いています。バランスをとる力が弱っている方は、常に脚が接地した状態を保てる交互型がおすすめです。

利用者自身の希望だけで選ぶことはせず、福祉用具専門相談員や理学療法士などの評価の上で、利用者の身体機能に合ったものを選定することが大切です。

体に合わせて高さやサイズを調整する

歩行器は、身長だけでサイズを決めることはできません。立って歩行器を握ったとき、肘が軽く曲がる程度の高さがよいとされています。高すぎると肩が上がってしまい、肩に痛みが出てしまうこともあります。低すぎると前傾姿勢になってしまい、転倒のリスクが生じます。

実際に歩行器に触れ、専門家が高さやサイズの調整をすることが大切です。

生活環境に合わせて前輪の設定を調整する

車輪つきの四輪歩行器の前輪は、回転しないもの、360°回転するもの、120°回転するものなど、段階的に調整できるものなど、種類があります。360°回転するものは動きの自由度が高く、方向転換がしやすいのですが、一方で不安定にもなりやすいため、誰にでも向いているわけではありません。

ブレーキの利きを定期的にチェックする

左右ハンドル型の歩行車や一部のサークル型歩行車には、ブレーキがついています。定期的に、ブレーキの状態をメンテナンスすることが、安全に使用するためには重要です。

ブレーキが弱くなってくると、立つときなどに歩行器が動いてしまったり、傾斜のついた場所で動き出してしまったりと、転倒のリスクが高まります。利用者が異常を訴えてくるよりも前に、定期的なチェックを続けることが大切です。

 まとめ・展示会のご紹介

まとめ・展示会のご紹介

歩行器は、歩行に不安を抱える高齢者の自立と安全を支える、非常に有効な福祉用具です。ただし、種類や特徴は多岐にわたるため、使用者の身体機能や生活の場面に合った適切な機種を選ぶ必要があります。福祉用具専門相談員や医療・介護職と連携しながら、正しく選定・調整・点検を行うことで、安全かつ安心して日常生活に取り入れることができます。

メディカルジャパンは、医療や介護、福祉に関するさまざまな商品が集まる展示会です。歩行器についても、施設や個々人のニーズに合った商品が見つかるでしょう。歩行器をお探しであれば、メディカルジャパンへぜひご来場ください。

【介護・福祉EXPO】では、歩行支援、フレイル予防、介護予防器具、
リハビリ用品やレクリエーション支援サービス、介護ICTなどが出展します。

監修者情報

監修:松繁 治(マツシゲ オサム)

プロフィール:
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科

免許・資格:
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定 脊椎内視鏡下手術・技術認定医

著書、論文:
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績

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