【クリニック開業の流れ12ステップ】
期間、資金、後悔しないポイントまでまとめて解説 

【現役医師の監修付】この記事ではクリニックを開業するために準備すべきものをはじめ、おおよそのスケジュールや開業時に気を付けるべきポイントなどを解説します。事前に流れを把握した上で、後悔のない開業計画を立てましょう。 

 クリニック開業までの準備期間と流れ

クリニック開業までの準備期間と流れ

クリニックの開業は、1年以上かけて準備するケースが多いです。開業までに数多くのステップをクリアしていく必要があるため、特に新規開業の場合はしっかりと準備期間を確保しましょう。まずは、下表でおおまかなステップとタイミングを把握してみてください。

次章から下記のステップごとに準備すべき内容を解説していきます。

1.     コンセプト・方針を決める
2.     業者選定(コンサルタントなど)
3.     開業エリアの審査・事業計画
4.     物件探し
5.     関係各所への事前相談(保健所/医師会など)
6.     開業資金借り入れ
7.     クリニックの設計・内装
8.     医療機器の選定
9.     各種申請・行政手続き
10.  人事労務周り・スタッフ採用・税理士/社労士選定
11.  集客戦略(HP・パンフレット・広告)
12.  開業当日

1.コンセプト・方針を決める

クリニックを開業するための最初のステップは、診療のコンセプトと方針を決めることです。このときに役に立つのが、5W1Hの考え方です。具体的には以下の6つの項目について考えてみましょう。


When:いつ

Where:どこで

Who:だれが

What:何を

Why:なぜ

How:どのように


この中でも、Who(どのような患者さんに)、What(どのような診療を)、How(どのように)という3点は、実際に行う「治療方針」の要になる重要なポイントなので、しっかりと考える必要があります。そして、5W1Hの中で最も大事になるのは、Why(なぜ開業して診察をしていくのか)という点です。クリニックを開業する医師は、それまでの勤務医としての立場を捨て、経営者としてリスクを取ってクリニックを開くことになります。クリニックを開業するに至った理由をしっかりと言語化し、経営理念、コンセプトを明確に意識しましょう。

2.業者選定(コンサルタントなど)

クリニック開業では、コンサルタントを活用する選択肢もあります。クリニックの開業を支援するプロですので、金融機関とのやりとり、クリニックを開業する物件の選定、事業計画の立案など、幅広く力になってくれます。

ただし、クリニックを開業するのは自分自身であり、コンサルタントはその意思を支えるサポーターです。コンサルタントの力を借りつつも、最終的には開業する医師自らが意思決定していくことが大事です。

3.開業エリアの調査・事業計画

開業するクリニックのコンセプトと診療方針を固めたら、次は開業エリアの調査を実施します。開業エリアの候補が定まると、家賃などの固定費が把握できます。このタイミングで事業計画をしっかりと作っていきましょう。事業計画を立てる際には、以下の要素を必ず盛り込むようにしてください。


・来院患者数の成長見込み

・患者ごとの平均売上

・家賃や診療機器のリースなどの固定費

・医師や医療事務などの人件費

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4.物件探し

開業エリアの調査と事業計画の立案ができたら、次はいよいよクリニックを開業する物件探しです。物件探しは先ほど紹介したクリニックの開業コンサルタントに依頼することもできますし、開業エリアの不動産会社に依頼するのも良いでしょう。物件探しで特に考慮したいのは、以下のポイントです。


・物件の形態(一戸建て、テナント、医療モールなど)

・周辺の人口と年齢構成

・周辺の交通状況

・競合となるクリニックの実態


物件選定を無事に終えたら、賃貸借契約後に一定期間家賃の支払いを免除されるフリーレントが可能か確認しておきましょう。

5.関係各所への事前相談(保健所/医師会など)

クリニックを開業するためにはさまざまな申請が必要になります。事前に提出すべき書類やタイミングを把握しておかないと、開業後の資金繰りにも影響を与える恐れもありますので、保健所や医師会など関係各所に事前に相談するようにしましょう。クリニックを開業するまでに連絡すべき関係先は、「9.各種申請・行政手続き」の項目の表を参考にしてみてください。

6.開業資金借り入れ

開業の資金は、自己資本に加えて金融機関からの融資という形で資金を借り入れるケースがほとんどです。必要な資金は診療科によって差はありますが、自己資金と金融機関からの融資合わせて、少なくても1,500〜8,000万円を想定しておくといいでしょう。

融資を受けるためには、事業計画書を作って資金計画を立て、銀行側と交渉する必要があります。金融機関は、事業計画書を見て、「過剰投資の有無」と「収支計画の妥当性」を特にチェックしていますので、しっかりと現実的な事業計画書を提出することが重要です。


診療科ごとの開業資金の目安は以下のとおりです。

診療科

開業資金の目安(テナント開業の場合)

内科

6,000万円〜8,000万円

整形外科

5,000万~9,000万円以上

耳鼻咽喉科

4,000万円〜6,000万円

眼科

6,000万円〜8,000万円

皮膚科

3,000万円

泌尿器科

3,000万円

脳神経外科・脳神経内科

6,000万円〜2億5,000万円

小児科

5,000万~6,000万円

産婦人科

6,000万円

精神科・心療内科

1,500〜3,000万円

美容皮膚科

5,000万円~1億円


こうした開業資金には、開業場所の賃料やスタッフ人件費だけではなく、必要な医療機器・備品購入の費用も含まれています。クリニック開業のために購入もしくはリースするものは以下のようなものが挙げられます。

・医療機器(X線、エコー、内視鏡など、)

・診察室の備品(机、椅子、パソコンなど)

・待合室の備品(ソファ、テレビ・モニター、Wi-Fiなど)

・受付やスタッフルームの備品(レジ、プリンター、電話、診察券用のカードなど )

7.クリニックの設計・内装

融資による資金調達の目処がついたら、いよいよ診療を行うクリニックの設計及び内装工事を行います。設計や工事は施工会社に発注することになりますが、内装デザインはクリニックの雰囲気に大きく関わる重要な要素です。クリニックのコンセプトと診療方針に従って、対象となる患者さんの好みや使いやすさを考慮した上で決めることが大切です。

8.医療機器の選定

医療機器は、X線やエコー、内視鏡など、クリニックのコンセプト・方針が実現できる機器を選びましょう。ここで大事なことは、同じ検査機器でもグレードの違いがあることです。事業計画で作った資金繰りの計画と照らし合わせながら、現実的なグレードの医療機器を選定しましょう。

また、診療情報を記録するための電子カルテは、最近の新規開業では必須ともいえるシステムです。2030年には概ねすべての医療機関で標準型電子カルテを導入することを国が目指しているため、開業当初から電子カルテを導入したほうがよいでしょう。電子カルテはさまざまな企業が製品を出しており、最近ではAIの技術を活用して、音声入力でカルテを作成できる仕組みも登場しています。どの製品を導入しようか悩んだときは、以下の項目に絞って比較すると判断がしやすくなります。

・使いやすさ

・サポート体制

・費用

9.各種申請・行政手続き

クリニックを開業するには、さまざまな行政機関への届け出が必要です。全ての手続きを滞りなく済ませる必要がありますが、特に注意したいのが、保健所に出す「診療所開設届」と厚生局に出す「保険医療機関指定申請」です。「診療所開設届」は医療法で開設後10日以内に届け出るように定められており、受理されないと診療行為はできません。無事に受理された後は、すぐに厚生局に対して「保険医療機関指定申請」を行います。この申請をしない限り、保険診療はできません。忘れずに申請しましょう。


「診療所開設届」と「保険医療機関指定申請」も含めた必要書類は以下のとおりです。

提出先

提出書類

保健所

診療所開設届
診療用X線装置装備届け
麻酔管理者・施設者免許申請書
結核予防法指定医療機関指定申請書
診療所使用許可申請書

厚生局

保険医療機関指定申請書

地区医師会

入会申込母体保護法指定医師指定申請書

消防署

防火対象物使用開始届出書

税務署

個人事業の開業届出書
青色事業専従者給与に関する届出書
旧吉原事務所などの開設届出
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書

都道府県税事務所

個人事業税の事業開始等申告書

社会保険事務所

保険医登録申請書
保険医療機関指定申請書

公共職業安定所

雇用保険適用事務所設置届

福祉事務所

生活保護法指定医療機関指定申請書

労働基準監督署

労災保険指定医療機関指定申請書
労働保険の保険関係成立届

10.人事労務周り・スタッフ採用・税理士/社労士選定

クリニックを開業して診療を行うには、医療事務などのスタッフを採用する必要があります。社会保険労務士(社労士)を選定し、雇用条件や勤務規定など、法的な整備をしっかりと行いましょう。スタッフの募集方法は、知人からの紹介、求人サイトへの掲載、公共職業安定所(ハローワーク)の活用などの選択肢があります。状況に応じて、適切な方法を選びましょう。

11.集患戦略(HP・パンフレット・広告)

集患対策はホームページ作成やSEO・MEO対策などオンラインによる手法と、看板広告などのオフラインによる手法に分けられます。クリニックの売上は患者さんが訪れないと発生しませんので、しっかりと患者さんを集めることが極めて重要になります。

また、新規の患者さんに次も利用したいと思ってもらえるように、Webによる予約システムや問診システムを導入して、患者さんにとっての利便性を高めることも大事なポイント。クリニックの待合室などで患者さんが過ごしやすい雰囲気を作ることも大切です。

12.開業当日

コンセプト・方針作りからクリニックの選定、各種申請書類の作成・提出と、数多くのプロセスを完了して、ついに開業当日が訪れます。ここまで準備してきたものをもう一度確認して臨みましょう。実際に開業すると、事前に想定することが難しかった課題や気づきが出てくると思います。こうした気づきや反省はしっかりとスタッフを含めて共有し、改善していくことが重要です。

 クリニック開業で後悔しないためのポイント

クリニック開業で後悔しないためのポイント

過剰な設備投資をやめ、リースも活用

開業するからには全て最高のものにこだわりたい、と考える方もいらっしゃると思います。しかし、クリニックの経営が安定するには一定の時間が必要ですので、最初から完ぺきな設備にこだわらず現実的な設備投資を実施することが重要です。

医療機器についても購入ではなく、リースを活用することも選択肢に入れておくとよいでしょう。リースを活用することで、手元資金を別の投資に回すことや温存することができるようになります。ただし、無計画になんでもリース契約してしまうと、毎月支払うことになるリース費用が逆にクリニック経営の足枷になってしまうケースもあります。リースはキャッシュフローのバランスを見ながら活用しましょう。

専門家に頼って開業日の遅延を防ぐ

クリニックを開業するには、これまで経験してこなかった実務を次々とクリアしていく必要があります。1つのステップが滞ると、その後のステップも滞ってしまい、結果的にクリニックの開業時期が大幅に遅延してしまう恐れがあります。

例えば、厚生局に出す「保険医療機関指定申請」は、各厚生局事務所によって申請の提出期限は違いますが、提出期限は毎月10〜20日とされていて、受理されるまでに約1ヶ月かかります。毎月の提出期限が決まっているので、期限までに提出ができないと、保険診療を実施できるタイミングが1ヶ月遅れてしまいます。

そうならないためにも、不安な部分があれば開業コンサルタントなどの外部の専門家の力を頼ることも選択肢のひとつです。予定通り開業するためのサポートを受けることができますので、早い段階で相談に行くことも考慮しておくといいでしょう。

集患施策にも力を入れる

クリニックのコンセプトや方針にマッチする潜在患者が多い地域で開業しても、実際にクリニックのことを認知してもらい、患者さんとして足を運んでもらわないと、クリニック経営は成り立ちません。そこですべきことは、集患対策です。集患対策は先ほど簡単に紹介しましたが、Webを活用したオンラインによる手法と、物理的なオフラインによる手法があります。


オフラインによる手法の代表的なものは以下になります。

・駅看板

・電柱、看板広告

・地域住民へのチラシ

・クリニック内覧会

・クリニックでのイベント


クリニックの最寄り駅や近所に看板広告を活用したり、チラシを配ったりすることで、クリニックの存在を地域住民に認識してもらうことができます。また、クリニックを開業するタイミングでは、クリニックの内覧会を開催することも有効な手段の1つです。クリニックの内装や、クリニックが大事にしている要素を直接アピールすることができますので、ぜひ実施してみてください。


オンラインによる集患者対策の代表的なものは以下になります。

・ホームページ作成

・SEO、MEO対策

・SNSによる情報発信

・リスティング広告


クリニックに来る前にホームページを確認する患者さんは少なくありません。ホームページがないと不安を感じる人もいますし、知りたい情報になかなかたどりつかない構造になっているとクリニックに行くことを諦めてしまう人もいます。オンライン上の「クリニックの玄関」だと意識して作る必要があります。近年ではSEO(検索エンジン最適化)の対策や、MEO(マップ検索エンジン最適化)の対策は必須ともいえます。ぜひ実施することをおすすめします。

患者と働くスタッフに考慮された内装・設備にする

クリニックの内装や設備は、診療を受ける患者さんはもちろんのこと、クリニックで働いてくれるスタッフにとっても大事な要素です。開業する医師の好みやこだわりも大切ですが、クリニックで過ごす人がストレスなく過ごすことができるかに重点を置くべきです。

例えば、座り心地のいいソファを置いたり、落ち着いた雰囲気を演出できるBGMをかけたりすることもよいでしょう。また、クリニックの待ち時間を少しでも短く感じてもらえるようにWi-Fiを導入して、患者さんが手持ちのスマートフォンで動画を視聴できる環境を作ったりすることも、満足度向上につながる可能性があります。さらに、お年寄りが多い地域での開業になれば、段差で転ばないようなバリアフリーの導入、さらに手すりを設置することも必要になるでしょう。

 まとめ

まとめ

開業までのプロセスはハードルがとても多く、診療も継続し並行しながら準備を行えば大変な作業になり、挫折しそうになる事もあるでしょう。しかし実際に開業した先輩方のコメントを聞くと「大変だったがいい糧になった」という意見がほとんどです。臨床を行うだけでは身につかないさまざまな経験を得られるので、頑張ってください 。

メディカルジャパンでは【クリニックEXPO】を開催!クリニックの院長・理事長や開業予定医が来場する展示会です。

開業・集患相談にぜひご来場ください。

監修・執筆者情報

監修:郷 正憲

経歴:2011年3月香川大学医学部医学科卒。同年4月より徳島赤十字病院で初期臨床研修、2013年4月からは徳島赤十字病院麻酔科に所属。 保有資格に日本救急医学会ICLSコース認定ディレクター、日本麻酔科学会認定医・専門医

主な研究内容・論文

著書:看護師と研修医のための全身管理の本

保有免許・資格:日本麻酔科学会専門医、ICLSコースディレクター、JB-POT 

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