医療モールとは?
開業のメリット・デメリットを解説【医師監修】
医療モールとは、さまざまなクリニックや調剤薬局が1カ所で営業するスタイルの施設です。この記事では、近年増えている医療モールの種類や注目される理由、メリットやデメリットなどをわかりやすく解説します。
医療モールとは?
医療モールとは?
医療モールとは、複数の診療科のクリニックや調剤薬局が1カ所に集まっている施設で、クリニックモールとも呼ばれています。1つの場所で複数の医療サービスを受けることができるので、患者さんの立場からすると移動の手間を減らしたり、待ち時間を短縮することが可能になります。
医療モールの数は拡大傾向にあるといわれています。京都府立大学の研究グループの調査※によると、2005年から2018年の間に、医療モールの数は、8.28倍に急拡大している結果が出ています。医療モールが作られるエリアについては、80%は東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、大阪府、兵庫県、北海道となっており、都市部に集中しています。同じ研究グループの試算によると、日本全体のクリニックの約1割は医療モールの中で開業されているそうです。
医療モールが注目される背景
医療モールが注目される背景
なぜここまで医療モールが注目されているのか、社会的な背景をみてみましょう。医療業界全体を見ると、病院数や病床数が減少傾向にある一方で医師は増加しています。病院の中での医師のポストが足りなくなり、開業医を目指すドクターも増えた結果、クリニック数は増加傾向にあります。クリニックが増加することで、それぞれの競争が激化しているのです。人口10万人あたりの医師の数が1982年は141.5人だったのに対して、2020年には269.2人と2倍近く増えていることからも競争の激しさがわかるかと思います。
出典:厚生労働省 令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況 をもとにRXjapanで作成
医療モールは、国が打ち出している「地域包括ケアシステム」に対応するための拠点としても期待されています。医療モールで総合的な初期医療と専門医療を患者さんに提供すると、これまでは大学病院や地域の基幹病院に通院していた患者さんの一定数を医療モールで対応できるようになります。その結果、大学病院や基幹病院ではより重篤な患者さんの対応に専念できるようになるという利点があるのです。
医療モールの種類
医療モールの種類
医療モールの開業形態は、大きく3種類に分類することができます。
それぞれの定義は以下のとおりです。
開業形態 |
定義 |
ビレッジ型 |
1つの敷地に複数の戸建てクリニックが集合する形態 |
ビル型 |
1つのビルに複数のクリニックが集合している形態 |
併設型 |
商業施設などの1フロアに複数のクリニックが集合している形態 |
次に、開業形態ごとに特徴を説明していきます。
ビレッジ型
ビレッジ型の医療モールは、戸建てのクリニックが一つの敷地に集まった施設です。特徴としては、建設段階から医療施設としての利用を前提に設計されていることや、内外装が統一されていることが挙げられます。また、それぞれのクリニックごとに駐車場を作るのではなく、1つの敷地を複数のクリニックで利用し、まとめて1箇所に駐車場を設置することで、患者さんの移動の負担が軽減されます。
ビル型
ビル型の医療モールは、クリニックや調剤薬局などが一つのビルに集まった医療施設のことを指します。ビレッジ型と同じく、最初から医療の提供を目的に設計されているのも特徴です。そのため、医療従事者や患者さんが使いやすいように配慮されており、バリアフリー設計やエレベーターの設置など、車椅子や杖を使う方でも利用しやすくなっています。患者さんにとっては1つのビルで複数クリニックの受診から薬の受け取りまで完結するため利便性も高いです。
併設型
ビレッジ型やビル型は、いずれも医療施設に特化した施設でしたが、併設型はすでにある施設にあわせて作られているため、少し雰囲気が異なります。併設型は、最近複数の形態が登場していますが、ここでは代表的な3種類をご紹介します。
商業施設併設型 |
ショッピングセンターなどに医療モールが併設されたタイプです。元々人が多く集まる場所なので、集患しやすいでしょう。 |
オフィス併設型 |
オフィスビルに医療モールが併設されたタイプです。ビル内で働く人以外にも、オフィス街に集まる患者さんを受け入れることができ、集患しやすいタイプといえます。 |
レジデンス併設型 |
マンションの一部分に医療モールが併設されたタイプです。マンション住民が通いやすいことはもちろんのこと、周辺に住んでいる人も利用することができます。 |
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医療モールのメリット
医療モールのメリット
医療モールで開業すると、どのようなメリットがあるのでしょうか?この記事では4つに分けて説明していきます。
患者さんが利用しやすく、集患しやすい
医療モールで開業する大きなメリットの1つは、集患に関する負担を軽減できることです。
医療モールはアクセスがいい場所に作られることが多く、商業施設やオフィス街のビルに併設されていると、元々人が集まりやす、患者さんが通いやすい場所でクリニックを開業することができます。結果として、クリニック開業直後でも多くの患者さんの来院が期待できるでしょう。
初期コストの低減・資金調達しやすい
クリニックを開業するためにはさまざまな設備投資が必要です。医療モールでの開業は、待合室や医療機器などをモール内に集合している他のクリニックと共有することで初期投資を抑えることができます。
また、医療モールは医療施設を前提に建設・設計されていることもあり、開業までの賃料が無料となるフリーレント制度が設けられている場合があるのもメリットの1つです。クリニックは賃貸契約した直後から売上がたつビジネスモデルではありません。開業準備期間はどうしても支出が多くなるので、フリーレントが利用可能な場合は、クリニック経営の大きな助けになります。
さらに、医療モールで開業することで、金融機関から資金を調達しやすくなる可能性もあります。クリニックの開業では、自己資金だけでは足りない資金は、金融機関などの外部から調達する必要があります。金融機関が融資の査定を行う際、クリニックが作った事業計画の内容をチェックすることになりますが、その際は「過剰投資の有無」と「収支計画の妥当性」の2点が特にチェックされます。医療モールの場合は、設備投資を抑えられる効果があり、さらに集患もしやすい環境にあるので、スムーズに資金を調達することができる可能性が高くなります。
専門医同士の連携で、診療の質が向上する
クリニックでの治療内容によっては、他の診療科のクリニックと連携する場合があります。
診療科が異なるクリニックが集まっている医療モールであれば、同じモール内にある他のクリニックを患者さんに紹介することができます。
例えば、糖尿病の治療をしている場合、「糖尿病網膜症」という合併症に罹る患者さんは少なくありません。医療モール内に眼科があると、すぐに糖尿病網膜症の治療を受けることができます。このように、医療モール内のクリニック同士がしっかり連携することで、より質の高い診療を提供することが可能になることも、医療モールのメリットの1つといえるでしょう 。
医療モールのデメリット
医療モールのデメリット
医療モールにはメリットもありますが、もちろんデメリットもあります。ここでは以下の3ポイントについて説明していきます。
固定費が高くなる場合がある
医療モールは立地がいい場所に設置されることが多く、テナント賃料や管理手数料などの固定費が高くなる可能性があります。クリニック開業直後は売上が安定しないことも少なくなく、固定費が経営を圧迫するリスクがあるので、しっかりと事業計画と照らし合わせて、資金繰りに無理がないかを確認する必要があります。
工事業者や医薬品業者を指定される場合がある
医療モールでは、単独のクリニック開業とは違い、自分の裁量で全てを決めることは原則できません。クリニックの設計や工事などについても、特定の業者との契約を指定される場合があります。通常であれば複数の業者に相見積もりを取ることができますが、特定の1社に依頼すると価格の比較をすることができないので、結果として費用が高くなるリスクがあります。
モール内の人間関係
単独でのクリニック開業とは異なり、医療モールには複数のクリニックが集まっています。医療モール内の連携は、先ほど説明したように、患者さんの相互紹介などのメリットにもつながる要素ですが、クリニック同士の人間関係が崩れるとデメリットにもなり得ます。
人間関係が悪化して他のクリニックとの連携が取れなくなると、情報共有や患者さんの紹介がスムーズにいかなくなる恐れがあります。普段からクリニック同士で積極的にコミュニケーションを図り、良好な人間関係を構築する努力も必要になるので、人づきあいが苦手なタイプの医師はやや立ち振る舞いに気を配る必要があるかもしれません。
医療モールでの開業を相談するなら?
医療モールでの開業を相談するなら?
医療モールのプロデュースは、コンサルティング会社が行うことが最も多くなっています。京都府立大学の研究グループによる調査※によると、全体の25%に当たるそうです。また、医師個人や調剤薬局がプロデュースすることも多いです。
そのほか、不動産会社、医療法人、建設会社から医療モールでの開業を呼びかけられることもあります。単独のクリニック開業と同じく、医療モールの立地がクリニック経営に大きな影響を与えるので、情報収集力が重要になってきます。医療モールでのクリニック開業に興味がある方は、開業コンサルなどの経験や情報を持つ専門家に相談してみるとよいでしょう。
まとめ
まとめ
開業に際して第一に重要なことは、開業の目的を明確にすることです。開業の目的を明確にすれば、自ずと目指すべき方向性が見えてきます。自由な診療、充実した医療機器、経済的な安定性、人それぞれ重点をおくところはさまざまでしょう。
そしてもう一つ大事なことは、なるべく多くの選択肢を把握しておくことです。今回は医療モールの選択肢について解説しましたが、「建て貸し」という初期投資を抑えながら希望の間取りのクリニックを建築できる選択肢もあります。あるいは自由診療でのオンライン診療に特化させることで、自宅の一室で開業する選択肢もあります。自身のビジョンに基づき有意義な選択ができるとよいですね。
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監修者情報
監修:田頭 秀悟
経歴:鳥取大学医学部卒。たがしゅうオンラインクリニック院長、日本東洋医学会専門医。脳神経内科(認知症、パーキンソン病、ALSなどの神経難病)領域を専門とし、主として糖質制限食やストレスマネジメント指導を中心に内科疾患全般に対しての診療を行うオンライン総合診療医。また東洋医学会専門医でもあり、問診によって東洋医学的な病態を推察し、患者さんの状態に合わせた漢方薬をオンライン診療で選択する治療法も得意としている。
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