地域包括支援センターとは?業務内容・相談事例・最新動向を解説

高齢化の進展に伴い、地域で暮らす高齢者を支える仕組みの重要性が一層高まっています。なかでも、地域包括支援センターは、高齢者が住み慣れた地域で安心して生活を続けるために、多職種が包括的な支援をおこなう中核的な拠点です。介護予防や権利擁護、総合相談といった多岐にわたる業務を担い、制度を横断した支援を提供する役割も果たしています。

本記事では、地域包括支援センターの概要から具体的な業務内容、今後の展望まで幅広くご紹介します。

 地域包括支援センターとは

地域包括支援センターとは

地域包括支援センターとは、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けられるよう、保健・医療・福祉の分野を横断した支援を提供する拠点のことです。設置主体は市町村で、保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員の3職種を基本として構成されています。

地域包括支援センターの前身として、地域の高齢者やその家族の福祉へのアクセスを向上させることを目的に、1989年に「在宅介護支援センター」が整備されました。高齢化に対応するため、高齢者が地域で自立して生活できる体制づくりが求められたためです。その後2005年には介護保険制度が見直され、「地域包括ケアシステム」の構築を目指し、地域包括支援センターの設置が定められました。主な目的は、高齢者の自立支援と、介護予防や介護度の重度化防止を図ることです。

地域において包括的なケアを提供する「地域包括ケアシステム」を構築し、有効に機能させるための中核的存在として、地域包括支援センターが重要な役割を担っています。地域に住む65歳以上の高齢者とその支援をおこなっている方が対象です。

令和6年4月の段階で、地域包括支援センターは全国に5,451か所、ブランチやサブセンターも全て合わせると7,362か所に設置されています。

近年、地域包括支援センターの役割には変化が求められるようになってきました。高齢者を取り巻く環境が複雑化・多様化するなかで、認知症や独居高齢者、ヤングケアラー、8050問題など、従来の枠組みでは対応が困難なケースも増えているためです。こうした背景から、センターには従来以上に柔軟で専門的な支援が求められ、機能強化型や基幹型センターの設置など、役割分担や連携体制の強化が進められています。

参考:地域包括支援センターについて(厚生労働省)

 地域包括支援センターの役割・業務内容

地域包括支援センターの役割・業務内容

地域包括支援センターが担う業務は、大きく6つです。それぞれの業務が密接に関係し合いながら、高齢者の地域での暮らしを支えています。

介護予防ケアマネジメント

地域包括支援センターの中心的な業務のひとつです。要支援1、 2の認定を受けた高齢者や、介護予防が必要とされる高齢者に対して、個々の状況に応じた「介護予防ケアプラン」の作成支援をおこないます。対象になる方は慢性疾患を持つことが多く、下肢機能や栄養状態の低下、環境の変化などをきっかけとして、容易に介護度が上がってしまいます。早期に介入し、介護予防に努める必要があるのです。

また、次のような項目について把握し、個々人の課題を分析して必要なサービスへの参加を促すことも大切です。

・歩行状態などによる移動能力、移動範囲
・社会参加の状況
・心身の健康管理
・日常生活の状態

利用者の状態や目標設定に応じて、ケアマネジメント(A,B,C)をおこないます。

介護予防ケアマネジメント業務は、基本的には利用者の居住地の地域包括支援センターで実施されますが、一部を指定居宅介護支援事業所に委託することも可能です。

介護予防支援

介護保険の「保険給付」にあたるサービスで、要支援1、2の認定を受けた方のうち介護予防給付を利用する方が対象です。地域包括支援センターが主体となり、高齢者へ適切なサービス利用を促すことで介護度の進行を防ぎます。

地域包括支援センターから派遣されるケアマネジャーがケアプランを作成し、そのプランに基づいてサービス事業所や施設との連携をおこないます。介護予防支援では、介護予防給付及び介護予防・日常生活支援総合事業の利用が可能です。

介護予防支援で利用できるサービスは、以下です。
・通所介護
・訪問介護
・介護予防短期入所介護
・地域密着型介護予防サービス
・福祉用具の貸与、販売

権利擁護

高齢者は、認知症や判断能力の低下により、財産管理や生活上の意思決定に支障をきたしやすくなるものです。そういった状況にある高齢者が、地域で安心して尊厳を保って生活できるよう、成年後見制度の活用、虐待や消費者被害の防止・対応といった支援が「権利擁護事業」と呼ばれます。このような支援は、高齢者が社会の中で孤立せず、より良い生活を維持できるために欠かせないものです。

しかし、近年では高齢者に限らず、家庭内での支援が必要な状況が多様化しています。例えば、ヤングケアラーや8050問題など、多様な家庭背景に応じた支援も求められるようになってきました。これらの問題は、従来の権利擁護事業の枠組みだけでは対応が難しい場合も多く、より広範な支援体制の構築が急務となっています。こうした背景を踏まえ、令和4年度からは「持続可能な権利擁護支援モデル事業」も開始され、権利擁護支援の地域連携体制の強化が図られています。

包括的・継続的ケアマネジメント支援

地域のケアマネジャーに対する支援や、住みやすい地域づくりを通して、地域全体のケアマネジメントの質を向上させる業務です。

高齢者が安心して地域で暮らし続けるためには、ケアマネジャー、地域の関係機関、主治医、施設など、他職種相互の連携が重要です。その実現のため、次のような支援を実施します。

・地域ケア会議の開催
・困難事例への個別支援
・ケアマネジャーへの個別相談

高齢者を支える専門職が連携して動けるよう、地域包括支援センターがハブ的な役割を果たしている点が特徴です。

総合相談支援

地域包括支援センターには、高齢者本人やその家族、地域住民からの多様な相談を受け付け、必要な支援や制度につなぐ「一次窓口」としての役割があります。

医療や介護、福祉に関する相談にとどまらず、住宅、金銭管理、家庭内問題など幅広い課題に対応しなければなりません。「どこに相談すべきか分からず、相談者がたらい回しにされる」ということがないように、行政や民間団体など、横断的に必要なサービスへつなげる必要があります。地域包括支援センターが中心となって、地域における関係各所とのネットワークを構築することが重要なのです。

制度横断的な支援

総合相談支援とも関わってきますが、高齢者の多様なニーズに答えるためには、介護保険制度にとどまらず、医療、福祉、権利擁護、地域活動など複数の制度やサービスにまたがって対応しなければならないケースも多くあります。

高齢者の生活課題は、非常に複雑化しています。たとえば、認知症に伴う金銭管理の問題には成年後見制度の活用が必要であり、虐待が疑われる場合は行政機関や警察との連携も求められるでしょう。このように、高齢者の地域での暮らしを守るためには、制度の垣根を超えた関係機関と連携が必要不可欠です。地域包括支援センターが中心となって必要な支援へつなげることで、高齢者の自立と尊厳を守る包括的な支援の実現を目指しています。

【介護・福祉EXPO】では、介護予防に向けたリハビリ用品やレクリエーション支援サービス、
ケアプラン作成支援、地域連携システム、介護ICTなど出展します。

 地域包括支援センターへの相談事例

地域包括支援センターへの相談事例

地域包括支援センターへは、さまざまな相談が寄せられます。よくある事例を3つご紹介します。

本人からの相談例:自宅で暮らしたいが、難しくなってきた

「家事や買い物などが難しくなってきたが、まだ自宅で暮らしたい。何か受けられるサービスはないか?」というような相談は、非常に多いです。

介護予防ケアマネジメントの対象としてアセスメントを実施し、「通いの場」の紹介や生活支援サービスの提供へつなげるなど、個々にあったプランを作成します。

家族からの相談例:親の認知機能が低下しているが、相談先が分からない

「親に、金銭の支払いができない、ガスの消し忘れがあるなど、認知症のような症状がみられるが、相談先がわからない」というのも、よくある相談の1つです。

相談を受けた職員が実際に本人の生活状況を確認し、医療機関の受診を促したり、場合によってはサービスに繋げたりといった対応をします。

周囲からの相談例:虐待が疑われる高齢者宅の通報

周囲からの相談事例としては、「近隣に住む高齢者がいつも怒鳴られていて、身だしなみも整っていない」など、虐待を疑う通報などがあります。

こういった相談が地域包括支援センターへ寄せられた場合、市町村の虐待対応窓口と連携の上、医療機関や警察などと共に対応にあたります。成年後見制度や権利擁護支援など、長期的な支援が必要になるケースも多くあります。

 高齢者人口の増加に向けた対策

高齢者人口の増加に向けた対策

2040年には団塊ジュニア世代が高齢者となり、高齢者人口は過去最大規模に達する見通しです。その一方で、現役世代は減少し、介護人材の確保が困難となることが予測されます。こうした状況のなか、地域包括支援センターを中心とした包括的な支援体制の整備と、地域包括ケアシステムの更なる深化が急務となっています。

地域包括ケアシステムの深化と推進

近年、高齢者の増加に伴う介護ニーズの増大、課題の複雑化・多様化によって、相談件数が大きく増加し、地域包括支援センターの業務負担が大きくなってきました。

たとえば、2025年には認知症の方が700万人にものぼると推計されており、介護者の負担軽減や相談支援体制の充実が急務です。2040年には団塊ジュニア世代が全員65歳以上となり、高齢者人口がピークを迎えます。住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供され、地域の実情に応じたサービスを提供できる地域包括ケアシステムの構築も必要不可欠です。

このような背景から、センター間の総合調整をおこなう「基幹型センター」、権利擁護業務や認知症支援の機能を強化した「機能強化型センター」などを導入し、地域包括支援センターの体制強化がすすめられています。

AI活用やICT導入による業務負担の軽減

地域包括支援センターの業務負担は年々増加しており、業務の効率化と質向上の両立が喫緊の課題となっています。特に、ケアマネジメント業務や記録作業、見守りなどに関しては、AIやICT技術の活用による負担軽減が期待される分野です。

厚生労働省の実証事業では、ケアプラン作成にホワイトボックス型AIを活用し、ケアマネジャーの思考フローを可視化する取り組みが進められています。AIは、膨大なテキストデータをもとに利用者に適したプランを提案することで、プランの質を保ちながら作成時間の短縮や思考の補助につながる可能性が示されました。

また、介護現場での実用例として、AI搭載型の見守りセンサーや音声認識による記録支援ツールなどの導入が始まっています。たとえば、見守りセンサーによって夜間の離床や転倒をリアルタイムで検知することで、職員の巡視負担を大幅に削減することができました。さらに、音声入力により介護記録を自動化するシステムによって、記録作業の時間を削減し、より多くの時間をケアに充てられるようになりました。

こうしたテクノロジー導入を支援するため、都道府県を実施主体とする補助制度も整備されています。補助率は最大4分の3になり、導入のハードルは年々下がってきていると言えるでしょう。

 まとめ・展示会のご紹介

まとめ・展示会のご紹介

地域包括支援センターは、制度横断的な支援を提供する地域福祉の中核機関です。高齢化が進展し、課題が多様化するのに伴い、その役割は介護予防・権利擁護・ケアマネ支援にとどまらず、地域全体のネットワーク構築や住民主体の支援体制の調整へと広がってきました。

2040年に高齢者人口がピークになるのを見据え、地域包括支援センターの整備・新設にあたっては、地域包括ケアシステムの深化とあわせて、業務効率化の観点からAI・ICTの積極的な活用が求められます。

メディカルジャパンは、医療・介護・ヘルスケアに関わる多彩な製品が集まる展示会です。介護ICTや見守りシステム、介護ロボットなど、業務負担の軽減や質の向上に役立つヒントや解決策に出会う場となれば幸いです。

【介護・福祉EXPO】では、介護予防に向けたリハビリ用品やレクリエーション支援サービス、
ケアプラン作成支援、地域連携システム、介護ICTなど出展します。

監修者情報

監修:株式会社スターフィッシュ
   代表取締役 斉藤圭一

プロフィール:
神奈川県藤沢市出身。1988年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業後、第一生命保険相互会社(現・第一生命保険株式会社)に入社。その後、1999年に在宅介護業界大手の株式会社やさしい手へ転職。2007年には立教大学大学院(MBA)を卒業。
以降、高齢者や障がい者向けのさまざまなサービスの立ち上げや運営に携わる。具体的には、訪問介護・居宅介護支援・通所介護・訪問入浴などの在宅サービスや、有料老人ホーム・サービス付き高齢者住宅といった居住系サービス、さらには障がい者向けの生活介護・居宅介護・入所施設の運営を手がける。
また、本社事業部長、有料老人ホーム支配人、介護事業本部長、障害サービス事業部長、経営企画部長など、経営やマネジメントの要職を歴任。現在は、株式会社スターフィッシュを起業し、介護・福祉分野の専門家として活動する傍ら、雑誌や書籍の執筆、講演会なども多数行っている。

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