【現場で即使える】ペイシェントハラスメント対策|医療従事者のための完全ガイド
患者とその家族からの暴言、無理な要求、セクハラなど、医療現場で増えている「ペイシェントハラスメント(ペイハラ)」は、医療従事者の心身を蝕み、医療の質にも影響を及ぼす深刻な問題です。この記事では、ペイハラの具体例や対応策、職場全体でできる予防策についてわかりやすく解説します。
ペイシェントハラスメントとは?
ペイシェントハラスメントとは?
近年、医療現場では「ペイシェントハラスメント(ペイハラ)」と呼ばれる問題が深刻化しています。これは、患者やその家族が医療従事者に対しておこなうハラスメントのことで、暴言や暴力、不当な要求、セクハラなど多様な形をとります。
かつては「患者第一だから」「病気でつらいのだから多少のわがままは仕方ない」と医療従事者が我慢を強いられていましたが、繰り返される不適切な言動は、現場の職員の心身を蝕み、モチベーション低下や離職につながる重大なリスク要因です。医療従事者の安全と尊厳を守るためにも、社会全体でペイハラへの理解と対策を進めていく必要があります。
ペイハラの種類
ペイハラの種類
ペイシェントハラスメントにはさまざまな形があります。患者とその家族としては「正当なクレーム」のつもりでも、過度な要求や人格を傷つけるような言動はハラスメントです。ここでは、代表的なペイハラの種類と具体例を紹介します。
ペイハラの種類と具体例(暴言・セクハラ・過剰要求など)
ペイシェントハラスメントの種類や具体例を挙げていきます。
行為の種類 |
具体例 |
身体的な攻撃 |
殴る、蹴る、噛む、腕を強く掴む、物を投げる、攻撃しようとする |
精神的な攻撃 |
大声で怒鳴る、罵声や暴言を浴びせる、「どうしてくれる」「お前なんかクビにしてやる」などの発言 |
威圧的な言動 |
「SNSに晒すぞ」「土下座しろ」「チンタラするな」などの強い言動、「俺は◯◯の知り合いだ」など権力者や反社会勢力との繋がりをほのめかす |
拘束的な言動 |
「◯◯をしてくれるまで帰らない」などの居座り、不法侵入、業務時間外の対応を求める、長時間の電話や対面での対応を求める |
プライバシーの侵害 |
無断での撮影・録音、SNSなどへの投稿、「◯◯病院のA医師は役立たず」のような個人への攻撃 |
セクハラ |
食事やデートに誘う、かわいいね・胸が大きいねなどの容姿に関する言動、不必要にスタッフの体に触る、つきまとい、待ち伏せ |
執拗な要求 |
病状に変化がないにも関わらず頻繁な病状説明を求める、何度も電話やメールを要求する、同じ説明を何度も要求する |
金銭の要求 |
交通費の請求、診療費の不払い要求、消耗品の金銭補償の要求など |
謝罪の要求 |
土下座など度を超えた要求は「不相当」と判断されペイハラに該当することがある |
その他 |
医療機関側に過誤や過失がない場合の要求、医療や介護のサービスとは関連のない要求 |
行為の種類 |
具体例 |
身体的な攻撃 |
殴る、蹴る、噛む、腕を強く掴む、物を投げる、攻撃しようとする |
精神的な攻撃 |
大声で怒鳴る、罵声や暴言を浴びせる、「どうしてくれる」「お前なんかクビにしてやる」などの発言 |
威圧的な言動 |
「SNSに晒すぞ」「土下座しろ」「チンタラするな」などの強い言動、「俺は◯◯の知り合いだ」など権力者や反社会勢力との繋がりをほのめかす |
拘束的な言動 |
「◯◯をしてくれるまで帰らない」などの居座り、不法侵入、業務時間外の対応を求める、長時間の電話や対面での対応を求める |
プライバシーの侵害 |
無断での撮影・録音、SNSなどへの投稿、「◯◯病院のA医師は役立たず」のような個人への攻撃 |
セクハラ |
食事やデートに誘う、かわいいね・胸が大きいねなどの容姿に関する言動、不必要にスタッフの体に触る、つきまとい、待ち伏せ |
執拗な要求 |
病状に変化がないにも関わらず頻繁な病状説明を求める、何度も電話やメールを要求する、同じ説明を何度も要求する |
金銭の要求 |
交通費の請求、診療費の不払い要求、消耗品の金銭補償の要求など |
謝罪の要求 |
土下座など度を超えた要求は「不相当」と判断されペイハラに該当することがある |
その他 |
医療機関側に過誤や過失がない場合の要求、医療や介護のサービスとは関連のない要求 |
あなたの職場でも起きていませんか?職種別・よくあるペイハラ事例
今まで我慢してきたことも、ペイハラに該当するかもしれません。よくある事例をいくつかご紹介しますので、ご自身の経験と照らし合わせて振り返ってみてください。
【医師へのペイハラ事例】
「AとBの検査をやれ!俺の言った通りにやれ!役立たず!」などと恫喝する、診察中に無断で動画を撮影する、「女医なんかじゃ話にならない」など差別的な発言をする、業務時間外の病状説明を頻繁に求める
【看護師へのペイハラ事例】
殴る・噛むなどの暴力、食事やデートに誘う、「前の病院では◯◯をしてくれたのに」「ナースコールをしたら10秒以内に対応しろ」と不当な要求を繰り返す
【介護士へのペイハラ事例】
不必要に体に触る、殴る・蹴る・引っ掻くなどの暴力、土下座など過剰な謝罪の要求、「差し入れした花の世話をしろ」など業務範囲外の要求
【薬剤師へのペイハラ事例】
物を投げつける、「順番を飛ばして俺の薬を準備しろ」などの過剰な要求、「男のくせに薬剤師なんて」などの侮辱的な発言
【医療事務へのペイハラ】
長時間の拘束、「マスクの着用を強要するな」「保険証なんか何回も見せる必要はないだろう」などルールに関する執拗な文句、理不尽なクレーム
【メディカル ジャパン】では、働き方改革支援、医療機関・介護施設の運営支援、
開業支援に関する製品・サービスが多数出展します。
ペイハラにあったとき、どうすればいい?|現場で使える3つの対処ステップ
ペイハラにあったとき、どうすればいい?|現場で使える3つの対処ステップ
ペイハラにあったとき、急なことに驚いてうまく対処できない方はとても多いです。あらかじめ、対応の流れを知っておくことで、落ち着いて対処できるようになります。以下に、対応の流れを図で整理しました。
STEP1 |
STEP2 |
STEP3 |
まずは身の安全を確保する まずはその場から離れる/複数人で対応する |
すぐに記録を残す 時間・場所・内容を記録し、証拠を保存 |
上司・院内へ相談する 対応マニュアルに沿って報告・ケアにつなげる |
STEP1 |
STEP2 |
STEP3 |
まずは身の安全を確保する まずはその場から離れる/複数人で対応する |
すぐに記録を残す 時間・場所・内容を記録し、証拠を保存 |
上司・院内へ相談する 対応マニュアルに沿って報告・ケアにつなげる |
それでは、図で示した3つのステップについて、ひとつずつ具体的に見ていきましょう。
【STEP1】まずは身の安全を確保する
ハラスメント行為が始まったら、最優先はスタッフ自身の安全確保です。無理に対応を続けようとせず、「少し席を外します」「担当者を呼んできます」といった声かけをしつつ、落ち着いてその場を離れてください。
・単独対応を避ける(できるだけ複数名での対応を)
・周囲のスタッフに助けを求める
・ナースステーションや警備など、支援を受けやすい場所に移動する
・加害者が興奮しているなど危険性の高い場合は、すぐに警察やセキュリティへの通報も検討する
暴力・威嚇行為を受けた場合、無理に応じないことが基本です。
【STEP2】すぐに記録を残す
次に、証拠を「見える形」で残すことが重要です。ハラスメントを受けた直後は動揺していても、時間が経つと記憶が曖昧になります。事実を正確に伝えるためにも、なるべく早く記録をおこないましょう。
【記録・証拠保存のポイント】
・暴力行為:物を投げられた、殴られた、噛まれたなど
写真(破損した物品、身体の傷、現場の状況など)、診療記録を残す
・精神的暴言・威圧行為
音声や文章が残っていれば保存しておく
・現場に居合わせたスタッフの第三者証言も記録しておくと有効
【記録に含めるべき項目】
・日時、場所
例)2025年5月10日 15時〜15時40分ごろ、820号室
・被害者の氏名や職種
・ペイハラを受けるまでの流れ、具体的なハラスメント行為
・ペイハラによって生じた心身への影響
ペイシェントハラスメントを受けた場合、専用の「報告フォーム」「記録用紙」を用意しておけば、必要な項目を漏れなく残すことができます。
【STEP3】上司・院内へ相談する
ペイハラを受けた場合、一人で抱え込まずに、上司や、院内のハラスメント対応部署へ報告してください。対応マニュアルがある施設は、マニュアルに沿って対応しましょう。
相談・報告をすることで、次のような対応に繋げることができます。
・患者対応の見直し
・加害者に対し、言動の是正をお願いする(口頭・書面)
・場合によっては加害者へ退院や診療制限を検討する
・医療安全などの専門部署との連携
・被害を受けたスタッフの心身のケア
実際の報告場面をイメージしやすいよう、口頭での報告例をご紹介します。
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看護師A:今、患者Bさんの家族が面会に来ているのですが、治療に関して不満があるようで「毎日CTをとれ、医師からの説明も毎日しろ、治っていないのはおかしいから謝罪してくれ」と怒鳴り始めてしまいました。一緒に対応してもらえませんか。
看護師長:そうだったのね。報告してくれてありがとう。Aさんは何か嫌なことを言われたりしませんでしたか?
看護師A:ちょっと怖かったですが、大丈夫です。最初は、なかなかよくならない不安を話していたので傾聴していたのですが、だんだんと興奮してしまって・・・。
看護師長:私が話を聞いてきますね。Aさんは、忘れないうちに報告書を作りましょう。このフォーマットに沿って、対応中の会話内容や流れについて書いておいてください。
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ひとりで抱えないための外部支援先一覧
院内で相談してもうまく解決に至らなかった場合、外部の支援を受けるという選択肢もあります。
たとえば、日本医師会は「ペイシェントハラスメント・ネット上の悪質な書き込みに関する相談窓口」を開設しています。日本医師会の会員専用です。
日本看護協会では、「看護職のためのメンタルヘルス相談窓口」を設置しています。相談内容はペイシェントハラスメントに限定されていません。職務に関連した悩みを解決したい場合、活用可能です。臨床心理士、精神保健福祉士、看護職のスタッフが対応してくれます。
つらい経験を繰り返さないために|ペイハラを防ぐ事前対策と職場づくり
つらい経験を繰り返さないために|ペイハラを防ぐ事前対策と職場づくり
ペイシェントハラスメントは、発生してから対応するだけでなく、「起こさせない仕組みづくり」も重要です。事前の備えがあることで、ハラスメントを未然に防ぎ、職員が安心して働ける職場づくりにつながります。
ここでは、医療機関で取り組める2つの対策をご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
患者・患者家族への情報提示で“予防線”を張る
まずは、「医療現場でもハラスメントは許されない」という施設としての姿勢を明確にすることが大切です。
・院内掲示物を設置する
待合室やエレベーターなど、目につきやすい場所に「暴言・暴力・迷惑行為はお断りします」「無断での動画撮影・録音行為はお断りします」などのポスターを掲示しましょう。
・同意書や入院案内などに明文化する
「職員へのハラスメント行為が認められた場合、診療の制限や退院措置などの対応をおこなうことがあります」といった内容を記載し、必ず説明をおこなうようにします。
このような対策をあらかじめとっておくことで、「入院時に説明しましたよね」「院内にこのような掲示をしています、院内のルールです」のように、毅然と対応しやすくなるでしょう。
院内での対応マニュアル整備と職員間の共有
もうひとつ重要なのは、職員が「これはハラスメントなんだろうか」と迷わずに行動するためのマニュアルを整えておくことです。どのような行為があったとき、誰が何をすべきかを明確にしておくことで、速やかに対応できるようになります。職員全体で共有しておきましょう。
【マニュアルに含めるべき内容】
・ハラスメントの定義や具体例
・発生時の対応フロー
・院内の相談窓口や支援体制について
なぜペイハラは起きるのか?|患者側・病院側の原因と背景
なぜペイハラは起きるのか?|患者側・病院側の原因と背景
ペイシェントハラスメントは、単なる「モラルの低さ」「わがまま」だけでは語れない、複雑な背景を持つ問題です。行為そのものは決して許されるものではありませんが、その背景にある「心理的・環境的な要因」を知ることは、予防や対応を考えるうえで非常に重要です。
ここでは、患者・家族側、そして医療機関側、それぞれの原因について整理してみましょう。
患者・家族側の心理的要因
患者・家族側の要因として、次のようなものが考えられます。
・不安、恐怖
病気の診断や治療の過程で、患者や家族が強い不安や恐怖を感じるのは自然なことです。とくに、先が見通しにくい状況では「どうにかしてほしい」「もっと何かできるのでは」と焦燥感がつのり、感情が爆発してしまうことがあります。こまめなIC、感情への寄り添いなどが不安や恐怖を和らげることに繋がるのではないでしょうか。
・怒りの転化
治療や検査の結果が思わしくなく、ショックを受けた場合などに、行き場のない感情が怒りとして医療従事者に向けられるケースもあります。
・認知症やせん妄
認知症やせん妄が原因となって、暴言・暴力が生じるケースも近年は増えてきています。「医学的な対応が必要な状態だ」と医療従事者・家族が共通の認識を持ち、対応を考えていく必要があるでしょう。
・個人の価値観
「年上だから」「偉い人(芸能人・議員など)と知り合いだから」のように、人生経験や社会的立場などに基づく価値観からハラスメント的な言動につながっていることがあります。施設としての立場や考え方をしっかり伝えることが大切です。
医療機関側の要因|多忙・説明不足・体制の限界
医療機関側の言動が、患者や家族の心情に悪影響を及ぼしている可能性もあります。医療従事者が、自分の言動を見直すことも必要です。
・説明不足
患者や家族に対して、治療や検査、病状についての説明が十分にされていないと、「何もしてもらっていない」「信用できない」といった不満に繋がりやすいです。
・対応が不十分
人手不足や業務量の多さから、コミュニケーションが少なくなっていたり、冷たい対応と取られるような言動をしたりしていると、トラブルに発展してしまうかもしれません。また、悪気はなくとも「やさしい・簡単な口調での説明」が、バカにしていると捉えられるケースもあります。
まとめ・展示会のご紹介
まとめ・展示会のご紹介
今回は、近年医療現場で問題になってきている「ペイシェントハラスメント」について、その種類や対応方法をご紹介しました。ペイシェントハラスメントを未然に防ぐためには、患者や家族との密なコミュニケーションも大切です。そのためには、業務の効率化や働き方改革も欠かせません。
メディカルジャパンでは、医療や介護の現場で役立つさまざまな製品を取り扱っています。ペイハラの対策に繋がるような製品もありますので、対策を強化したいとお考えの方はぜひご来場ください。
【メディカル ジャパン】では、働き方改革支援、医療機関・介護施設の運営支援、
開業支援に関する製品・サービスが多数出展します。
監修者情報
監修:伊藤 有毅(いとう ゆうき)
経歴:
2012年 東北大学医学部医学科卒
2014年 東京大学医学部精神神経科
2015年 都立松沢病院 2018年 柏メンタルクリニック
免許・資格:
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
所属:
柏メンタルクリニック
専門領域:
・医療 > 外科・内科以外の診療科 > 精神科(心療内科)
・医療 > 外科・内科以外の診療科 > 心療内科
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